01-ヨーヨーチャンピオン岩倉玲の栄光と挫折、現在進行形の世界大会への道

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今回の全国大会で激戦の4A部門を高度なレベルのトリックをガンガン決めて優勝した岩倉選手。本人曰く“やらかした”2013年世界大会での撃沈からその後、どのように立ち直り、JNでの優勝を果たしたのか。そしてそれは今年の世界大会に向けての序章に過ぎません。

一度ならず複数回世界チャンピオンになったプレイヤーのモチベーションの保ち方と、世界チャンピオンでも道に迷う、というストーリーを通じて、競技ヨーヨーの魅力をさらに知ってもらい、世界大会での岩倉選手の活躍をみんなで応援していくために、複数回に渡り、インタビューをしていきます。

 まずは2013年シーズンから振り返り、大会ごとにその時々に考えていたことやフリースタイルのコンセプトについて振り返ってもらえますか?

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どうも、久々のReiです。

じゃあまず13年シリーズの最初の大会だった、CJを振り返りたいと思います。

 ■2013セントラルジャパンヨーヨーコンテスト

・ReXtreme 2.0を使用。

・構成にソロハムは入れないで出場。

・結果:4A部門優勝

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結果は優勝したものの、実は結構もやもやしてました。競技としては2012年世界大会で優勝、エンターテイメントとしては2012 44CLASHで優勝、と二つのやりたいことをやりきって結果が出た後だったからです。明らかに「次」のステップが見えない中を模索していた時だったからですね。

 曲も2週間前に決めました。一応の「新しい事」として「ユーロビートを使う」っていうコンセプトはあったんですが、「それなりのものがそれなりに出来た程度」、で終わってしまった感が正直ありました。

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下手に結果が出ているだけに、自分の中で何かが足りないのはわかるけれどそれがなにか見えない、という焦りを感じることはあると思います。修正するべき箇所はあるのだろうけど具体的にそれが何か分からないもやもや感、これを抱えたまま岩倉選手の2013年シーズンは始まりました。

そこから浜コン、そしてJNと続いていきます。

 ■2013浜松ヨーヨーコンテスト

・ラテラルキャップを付ける事で本体を重量アップ(トップオン目的ではなかった)

・ソロハムやオービット系についてはこっちの方が「なんとなく」やりやすい事に気付く

・結果:X部門優勝

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 CJの後、ルーティンの反復練習も終わったので、ラテラルキャップを装備してトップオンやソロハムを練習していた、、、というか遊んでいました。

 そうしてる内に浜コンの練習を始める時期になって、ノーマルだとイマイチ感触が合わないことに気づき…。ラテラルキャップ付きのフィーリングにすっかり慣れてしまっていたんですね。感触の違いはありましたが、決して使いにくいと感じる事はなかったので、トップオントリックは構成には入ってませんでしたがそのままのセッティングで臨みました。

実際オービット系やソロハムはなんとなくこっちの方が安定するかも?というぼやーっとした感触はあったので。同じ静岡出身の村木君が主催の大会だったし、構成も曲も気に入っていたので、気持ち良く出来ましたね。

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ハマコンはいい意味でもリラックスして、やりたいことが出来たのかなぁと思います。とてもいい大会だし、何をやってもありな雰囲気で岩倉選手にとってもホームのような空気感で色々試すことも出来たんじゃないでしょうか?

何か新しいことをやりたい選手は今年のハマコンで試すのも良いと思います。みんなでハマコン行きましょう!

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シーズンオフの遊びの時に新しいスタイルや技が生まれるのはよくあること。普段の定石から外れることで新しい何かを見出したり。ただそれが確信に変わるまでには時間がかったようです。


■2013ジャパンナショナルヨーヨーコンテスト

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 フリーの完成度としてはとても高く、充実しているような気がします。優勝したとき、嬉しかっただろうけどこの後の世界どうしようという気持ちはありましたか?このままやるか、それてとも特にやりたいことがないままに惰性で世界に臨んでしまいましたか?

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 構成自体はホントに数年ぶりにステージが楽しく思える、自分にとって非常に良いものでした。曲についても浜コンで使ってはいたけど自分が飽きて無かったし、浜コンでの合わせ方が自分に合ってると感じたので、そのまま3分バージョンにして臨みました。結果を振り返れば、仕事が繁忙期の中だった練習量を鑑みると、本番でこの完成度で出せたら合格かなとは思いました。

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 けれども世界大会で同じ構成で出た場合、JN以上のものを出せる自信は実は無かったです。6月~8月に仕事がさらに山場を迎えることもわかってたし、この構成はこれで綺麗に終わらせたかった気持ちがありました。

 あとは浜コン⇒JN⇒世界じゃ、さすがに使いまわしすぎだろ…って気持ちも正直ありました。自分が見る側だったら、飽きちゃうよなと。自分が大会に出る目標の一つである、『見てくれる人へ、いかに「面白さ」を伝えるか』(もちろんそれが全てではないけど)という観点から言うと、「3回連続同じ構成」っていう選択支は自分の中でギリギリアウトだったんでしょうね。

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過去にジョエルジンク選手がそれをやり3大会全く同じルーティンと曲で優勝を果たした後、プレイヤーたちから反発が出たことがありました。ルールに沿って勝ったにもかかわらず周りからの無言のプレッシャーみたいなものがありますよね。特にトッププレイヤーの人たちは同じ技を使いまわすことに引け目を感じることがあるように思います。ただ本来は同じ動きを10年やり続けることで熟成して、1年目と10年目の違いが出せればそれで良いと思うので、よい構成であればやり続けるのも一つだと思います。ただ、世界チャンピオンになった人がなぜ戦い続けるか、最初は優勝することが目的だろうけど2度、3度となると目的が変わってくるというところに岩倉選手が囚われたのかと思います。

脱線してしまうけどヨーヨーは表現競技のように捉えられていますが、ルール的には技術を競うことに重きをおいている競技なので本来まったく個性が無かったり、他の人の構成、技でも100%コピーしていてもそれが世界最高の技術であれば優勝してしかるべきだし、それがチャンピオンというルールになっています。ただプレイヤーの中の美学としてそれをよしとしない、という暗黙のルールでトップ層が競っているのでルールと現状に乖離があるのかなぁと思っています。

岩倉選手の場合は、技術的には世界大会で優勝しており、一番うまいから優勝!が最大の目標ではなくなるところで”面白さ”を見せることがモチベーションになっていると思います。勝つことと、やりたいことを両立させようとする上での、自分なりの心の葛藤があればぜひ教えてください。

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 おっしゃる通りで、世界チャンピオンになった人が何故戦うのをやめてしまう、いわゆる「世界チャンピオン病」があるのかを考えると、「頂点を取り目標がなくなる事」が確かに原因だと思います。ブラックもそうだったし。

 でも実際は2008年に世界タイトルをとってから、自分はそこまでそういった心境にはなりませんでした。多分「世界大会の優勝が本当の頂点」だと思ってないからだと思います。

  ぶっちゃけ自分が一番上手いと思ってないです。日本人に限定したとしても、リジェネなら丸山君が頂点、杉村の体系なんて難しすぎてあの完成度じゃ世界であいつしかできない。オニッキーなんて技/発想が規格外すぎるし、加川君のリリース系やバリエーション、緻密な構成は僕には真似できない。ボヨ系リキャプチャー系、そして何より4Aの演技を創り出すならナオトが最強だし。

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 ヨーヨーの世界でそうなのに、他の業界も知っちゃうと更に。

僕はヨーヨーを始めてから数年した頃、実はディアボロやジャグリングの方にハマっていったんです。当時ヨーヨー大会とディアボロ大会が併催されてた時は、ディアボロだけに出ていました。それから出身の静岡市ではすごく大きな大道芸のイベントが毎年行われていたので、その影響もあったと思います。

 今はあまり「練習」はしなくなりましたが、ジャグリングやディアボロを「観る」のは相変わらず大好きで。youtubeでは多分ヨーヨーよりダンスやジャグリングの動画を見る時間の方が長いと思います。やっぱりホントにそういう業界のトップってすごいし、レベルが違う。

 世界チャンピオン、って感じは良い意味で薄れて、モチベーションは上がります。世界大会優勝しても、もっと凄い人や面白い人が業界内外にいて、出来ない事とやりたい事と創りたい事が結構あるんで、そういう意味で「目標がなくなってしまう」っていう感じはそこまで無かったです。

 
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 スーパー極端乱暴な表現を言ってしまうと、このご時世でヨーヨー3つ回すどころか技も出来てないのに頂点なんてそんな大それたものにお前がいるわけねーだろと。

 あとは自分の満足する100%の力を出し切る事が世界チャンピオンになる前からの最大目標だったので、それを目指して続けてく中でタイトルが増えていっただけなので。

 ただそうは言っても、結果というものにフォーカスするならば選手にとって凄くモチベーションを保ちにくい順位ですよね。世界一位って。最高の結果=現状維持。それ以外=順位落下。しかも去年と同等の演技じゃ、「今年も同じじゃん」って言われてしまう。

 毎年の技術進化や若手選手の台頭が激しいこの業界だと、追う側よりも追われる側の方が気持ち的には大変だと思います。チャンピオンとして見られるから、期待度も高くなるけどその分注目を集めることで辛口批判も多くなる。それは自分も感じる事は多々あります。でもそんな状況で、世界大会を連覇してく人、特にHiroyukiとか斎藤シンジ君は本当に尊敬してます。どんだけ努力してメンタル維持してんだろうと。

 それとこれは少し自分が特殊なのかもしれませんが、スポンサードを受けながらヨーヨー競技に参加する身だから、そういう責任感みたいのもあると思います。そればっかりになるとヨーヨー辛くなっちゃうのであまり追い込まないようにはしてますが、やっぱ意識はします。 

 そういう事を改めて振り返ってみると、まだまだ上を目指さなきゃいけない気持ちはもちろんあったけど、それどう具現化するのか…。大会に出続けて丁度10年くらい経っていたこの年に、迷いやモヤモヤがとうとう出てきてしまったんだと思います。


2013年世界大会:
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4A,AP共にやらかす。

(動画は各自で御覧ください。)

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やる前からの気の迷いとAPと4A両方に出たことの理由や、社会人として仕事とヨーヨーの両立の中のモチベーションの低下など色々葛藤があり、“やらかす”という結果に。

ただ、やらかした!と吹っ切れるところが岩倉選手のメンタリティーの強さで、魅力なのかもしれません。

次回はこのやらかした世界大会について本人が反省文を原稿用紙5枚にまとめてくれました。必見!

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小学生の時に理科室のコンセントプラグ壊してリアルにそのくらい書きましたけどね