独特なコンセプトとこだわりの表面処理で話題のブランド「At design Lab」より、MoNoシリーズの最新作が間もなくスピンギアにも入荷!
今回もオーナー様より、その開発ストーリーをご紹介いただきました。
MONO開発にあたり
MONOはMoNoシリーズにおけるフルサイズモデル。MoNoシリーズのベースデザインを56mm台で再設計するところから全てが始まりました。ここで設計にあたり、いくつか懸念していたことがあります。それは強すぎる回転力です。
54mmの時点で十分すぎるほど回転力があり、計算上はフルサイズに匹敵するほどのデザインでした。それがフルサイズになれば、オーバーサイズ並みの回転力を持つデザインになることは容易に想像できます。そこで、MONOの設計を始めるにあたり、MoNoシリーズの設計思想をベースに、この十分な回転力を維持したまま、エッジや重量配分を工夫することで、動かしやすさも両立する方向で設計を進める方針を決めました。
Operation Darkmagic
MONOの設計を進める上で、YoYoJamのDarkmagicをReferenceに開発を進めていきました。
Darkmagicは私達が語るには恐れ多いほど、YoYoJamを代表するロングセラーモデルです。Hitmanをフルサイズにしたデザインで、厚いアルミリムによる安定感を持ちつつも、ハイウォールにより動かしやすさが両立されているのが特徴です。素早くスピードトリックをこなすというより、ゆったりとトリックを愉しむためのヨーヨーでした。
まさにフルサイズのMONOが目指しているコンセプトそのものです。ローエッジが当たり前の昨今、独特のハイウォールデザイン故に、Darkmagicをオマージュしたヨーヨーは久しくリリースされていませんでした。
当時、シグネチャーであるAndre Bourey氏によって立ち上げられたThedarkmagic.comに多くの資料が残されています。興味がある方はリンクを貼っておきますのでご覧下さい。
当時、Andre氏が得意としていたグラインドトリック、サムグラインド、スナップグラインドがやりやすいようにアルミリムの形状が工夫されているのが特徴です。
MONO 設計思想
MONOのコンセプトは「柔らかさを超越した、上品な振り心地」です。過去、オールドスクールを意識して、柔らかい使い心地を持つヨーヨーが多く作られてきました。MONOはシリーズに共通する柔らかい使い心地をさらに高め、その先にある柔らかさを超えた使い心地を追求しています。
MONOはフルサイズのため、外周寄りの重量配分を意識しなくても、十分に回転力を持たせることができます。そこでシリーズの他のヨーヨーとは違い、わずかに柔らかい使い心地になるような重量配分を心掛けました。そういった背景もあり、当初からこのDarkmagicをReferenceにすることは決めていました。Hitman、PeakやWooly marmotと通ずるフラットリム x ハイウォールデザインを踏襲しているフルサイズ。何より、ロングセラーモデルとして長年愛されていることが、このヨーヨーのデザインとしての秀逸さを証明しています。もちろん、Darkmagicの重要な設計ポイントであるグラインドトリック、サムグラインド、スナップスタートがやりやすいリムデザインも、MoNoシリーズのベースデザインを作る際に反映していました。しっかりとグラインドの際に喰らいつくSmooth Ultimatte Coatingとリム形状、スナップスタートがやりやすいフラットなリム形状。極め付けはサムグラインドがしやすい、内側にえぐれたリム形状です。回転力と傾きにくさを考慮した結果のリム形状ですが、デザイナーの遊び心として、サムグラインドができるようにと考えてのデザインでした。(ちなみに、オーナーはこのことをMoNoがリリースされるまで知りませんでした)
Darkmagicのサイドシェイプをサンプリングしながら、MoNoシリーズのベースボディーとミックスして設計を進めていきました。
オリジナルのDarkmagicは56mm前後ですが、54.5mmのMoNoとの差別化も考えて、56.5mmで設計を進めていきました。幅は縦横比のバランスを考えて43mm。エッジについては、MoNoと比較して大幅に高めに設定しています。直径を56.5mmにした事による回転力の大幅な向上を受けて、動かしやすさを担保するのが目的です。MoNoシリーズの設計思想に習って、エッジでのストリングヒットが最低限になるような点接触の形状にしていますが、エッジの高さも相まってある程度のスリープロスは覚悟しました。
まずは、重量を67.0gにターゲットして設計を進め、一度3Dプリンターで形状を確認しました。
3Dプリンターで形状確認
■Diameter 56.5mm
■Width 43 mm
3Dプリンターでサイドシェイプのデザイン、エッジ周りを中心に確認しました。エッジとストリングの接触を確認した結果、外周側のコントロールエッジの干渉が強いため、コントロールエッジの幅をやや広げました。
また、サイドシェイプが美しくなるように、ラウンドとフラットリムの比率や曲率半径も再調整しました。これらの修正を反映させた図面で、A6061材質での試作に進みました。
1st Prototype
■Diameter 56.5mm
■Width 43 mm
■Weight 67.0g
■Coating Smooth Ultimatte Coating
いざ届いてみると、MoNo 54mmとは明らかに見た目が違うヨーヨーでした。直径の大きさだけでなく、高いエッジのハイウォールデザインも相まってそう見えます。
十分すぎる回転力ですが、ハイウォール独特の動かしやすさがあり、トリックを楽しむ大人のためのヨーヨーというコンセプトが垣間見えました。重いのに思い通りに動く、不思議なヨーヨーでした。
一方で67gという重さが効いてきて、長い時間使っていると少し疲れるように感じてきました。全体の重量バランスを見直し、重量を66g台前半まで落とした次のプロトタイプを作製しました。
2nd Prototype
■Diameter 56.5mm
■Width 43 mm
■Weight 66.4g
■Coating Smooth Ultimatte Coating
1st Prototypeから重量を66g前半まで落としたのが、この2nd Prototypeです。1st Prototypeにあった中心部分の重さが軽減し、体感重量の軽さが向上しました。
Darkmagicにあった安定感と動かしやすさのバランスに一歩近づきましたが、ピーキーすぎる・・・そんなヨーヨーでした。結論として、重量バランスをもう一度見直すことにしました。
横幅方向に対しても最外周に寄せていた重量配分を、少しだけ中心方向に再分配しました。動かしやすさの向上が狙いです。これにより周方向に対しては、外周寄りの重量配分になりました。その分の慣性モーメントを落とすため、重量を66g台前半から65g台後半に落とすことで、回転力を維持しています。
Production model
■Diameter 56.5mm
■Width 43 mm
■Weight 65.8g
■Coating Smooth Ultimatte Coating
上品な振り心地、というのがファーストスローの感想でした。しっかりとした安定感、でもハイウォールデザインで動かしやすさは担保されている。スピードプレイよりは、ゆっくりとトリックを愉しむ一品に仕上がりました。
Smooth Ultimatte Coatingのおかげで、しっかりとした振り心地の中に上品さがあり、短時間でもヨーヨーをしっかりプレイした気分に。狙い通りmonoとは対極の仕上がりになりました。大人になるとなかなかヨーヨーを振る時間をしっかり確保できない時もあります。短時間でもしっかりとヨーヨーを楽しみたい時や、持ち前の回転性能の高さを活かして本格的な練習をしたい時にもオススメできるヨーヨーになりました。また、オリジナルへの敬意としてグラインドトリック、サムグラインド、スナップグラインドがやりやすいようにリムの形状も工夫されています。
デフォルトはM4-12mmの軸が入っていますが、もう少し重く使いたい方は図面上M4-16mmまで入れる事ができます。ただしネジ穴がきついため、ネジ潤滑剤を併用するなど取り扱いにはご注意ください。
カラーリング
今回はプロトタイプから、新しいカラーリングで開発を進めてきました。当初はシリーズを通じてシルバーとスペースグレイの組み合わせを考えていました。しかし、全て同じカラーだと見分けがつきません。特に54mmと56mmなど近いサイズの場合は顕著です。
そこで今回の56mmから新色であるスターライトを迎え、新しいカラーリングでリリース致します。使い込んだAnti-yoのEetsitをオマージュした、渋いカーキーブラウンカラーです。
最後に
At Design Labの3作目としてリリースしたMONO。モノがありふれている時代だからこそ、王道ではないアプローチで、王道のフルサイズへ挑戦することに意味を見出してきました。
ヨーヨーの設計に造詣が深い方は気づかれていると思いますが、このMONOの設計アプローチは異質です。市場のスタンダードな設計方法の真逆を掛け合わせることで、パフォーマンスを最大化しています。それゆえに独特の振り心地となっており、オールドスクールな唯一無二のヨーヨーとなっています。
オールドスクールが好きな方だけでなく、最近ヨーヨーを始めてオールドスクールを知らない方も、ぜひお手に取って頂ければ幸いです。
SGスタッフからのコメント
この機種のコンセプトを理解して振ると、なるほどな!と思わせる秀逸なヨーヨーです。
前作mono 50mmが「よく出来たアンダーサイズ」という印象だったところに現れた、フルサイズのMONO。回転力があり、直径も一般的なヨーヨーに多い値になっているが故に、一見するとmonoよりもコンセプトが伝わりにくい機種かもしれません。
実際に使ってみると「柔らかさを超越した、上品な振り心地」というコンセプトがしっくりくる、値段相応の振り心地。単なるダークマジックのオマージュというだけでなく、しっかりと現代ヨーヨーの王道スペックや設計のポイントを踏まえた上で、かなり作り込まれていることを感じる出来でした。
MONO単体で振っても存分に楽しく、mono 50mm / MoNo 54mm / MONO 56mmの使い比べもしたくなるヨーヨーです。
シリーズものは途中から買いにくい印象を持たれる方もいるかもしれませんが、ぜひMONOをきっかけに集めてみてはいかがでしょうか。