メタルドリフター開発ストーリー

メタルドリフターの新型が発売されています。アメリカでもベストセラーとなっている引き戻しメタルはヨーヨーを始めていく上での新しい選択肢の一つとして、手軽に手に入る回転力と金属ならではの”モノ”の魅力があります。今も昔も”メタル”は男の子のハートをがっちりキャッチしてます。

 

     

もともとはプラスティック製のドリフターというヨーヨーの開発が先行していました。当時あったフリーハンドZEROがフルサイズとするならばそれよりも一回り小さい、細かい取り回しのきく、なおかつ、一回り小さいフリーハンドキャップのつくデザインでした。マーケテイング的な観点からのコンセプトは素晴らしかったのですがボルト・ナットの構造で、当時の工場の技術では肉厚すぎるボデイはうまく成形できず、重量配分も全体に厚ぼったく極限まで幅広く作られていたため、バランスをとることができませんでした。今からすると信じがたいことですが、すでに金型まで作られていてサンプルを作っていたこのドリフターは深刻なブレが解決しないために、お蔵入りに。

 

お蔵入りのロゴキャップ

 

ラウンド+アンダーサイズ!

 
FHProとのサイズ比較

それと並行して、ドリフターの形状、直径は当時のマーケットに沿っていたものだったので、金属化が決定されました。ここでヨーヨー開発史上、謎の珍事が発生します。いままでメタルのヨーヨーを作ったことがなかった工場だったこともあり、あろうことかプラステイックの形状をそのまま金属化。

初代のメタルドリフターには金属機種なのにメタルスペーサーがつき、またボルトとナットで締める、しかもメタルキャップを装着してボルトとナットを隠すという競技用ヨーヨー以上の手間がかかった機種が出来上がりました。

今となっては事の経緯を確かめることができませんがメタルゼロのあとにリリースされたはずなのに、なぜそのような複雑な構造になったのか不明です。

殆どの人がやってないと思いますがキャップ交換遊びができます。

またこのキャップコンセプトがスカイホークに引き継がれ、またお蔵入りの別機種、ファイヤーホーク、フェザーホークにも採用されていました。スカイホークのセンターキャップはフリーハンドProにも付くように設計されているのでぜひ試してみてください!

通称ドリフターキャップはその後、Hankのシグネチャーモデル、フリーバードに採用され、2017年発売のパンダモニウムにも装着可能という裏設定として生き残っています。(当初フリーバードをドリューシグネと紹介しましたが、ご指摘をいただき修正しました。ドリューシグネは未発売のビックバードでした)

EXIT8にもうっかりくっついてしまうのでそちらもお忘れなく!

キャップ単体はアキバ店店頭のみですが販売をしています。店舗にお立ち寄りの際は探してみてください。

また競技シーンで使われることもなかったのであまり知られていませんが、アメリカのトイザらスやアマゾンなどの一般向けマス商品としてはいまだにメタルドリフターはベストセラーとして君臨しています。

引き戻しメタルのベストセラーとして定番化してしまい、高コストでありながら製品仕様を大きく変更することができずに時間だけが過ぎていきました。

外観を変えない範囲での変更としてスペーサーが一体化されましたがなぜその時に本体にネジを切る方式にしなかったのかは謎です。(というか問題が問題として認識されていませんでした。)他メーカーが引き戻しメタルをアップデートし、サイズCを採用する中、ダンカンだけが古いモデルを継続して、プレイヤーには見向きもされず、一般トイ市場で販売を継続していました。

ナイロンナットとボルトなので初心者がやりがちなネジを潰してしまうということがなく、万が一問題があってもパーツ交換で済むことはメリットとして上げられます。しかしアルミ機種の削りだしに六角ナット用の場所を作り、小さなメタルキャップをねじ切ってつけることは効率的とは言い難い構造です。ちなみにヨーヨーの着色は競技用機種で広く行われているアナダイズ(陽極酸化処理)ではなくて、玩具一般に用いられる”塗装”による着色です。このことからもヨーヨーの常識ではなく、玩具工場がデザイン、設計をしたヨーヨーという推測が成り立ちます。

     

ここまで踏み込むとメーカーに怒られそうですが、あろうことか2015年になっても工場からサンプルが送られてきていて改訂版を作ろうとしていたのですが、見た目には同じ構造にしか見えず、性能も同じように感じました。

このままでは良くないということで、2015年、メタルドリフターの後継機種として今回の新メタルドリフターと同様のコンセプトでメタルレーサーを発売しますが、バイヤーたちによる強力なメタルドリフター信仰により、メタルレーサーは後継機種として乗り換え需要を促すことができませんでした。

 

 

サイズCベアリング、新型MODSスペーサーに対応、さらにレーサーキャップ標準搭載で48mmリングと互換性あり、引き戻しハイウォール!とファンクション盛りだくさんでしかもメタルドリフターよりすこし安い価格設定だったにも関わらずメタルドリフターの座を覆すことはできませんでした。2017年現在、トイザらスなど大手流通にも乗り、販売自体は好調なようですが、メタルドリフターの後塵を拝しています。

2016年、ようやくメタルドリフターの開発が始まりますがここでも紆余曲折が発生します。

   

工場から送られてきた試作品なのですが、製品はシルバーに内側メタリックのブルーという指定なのですが、特に色の細かい指定をしなかったため、なんと3Dイメージで作ったモデリングのシルバーカラーそのものを色味として再現して送ってきました。

何を言ってるかよくわからないと思いますが、CGが表現する不自然なメタリックの光沢感を再現するというよくわからない遠回りをしています。メタルドリフターにはやはり何か因縁があるのかもしれません。。。

   

元々のメタルドリフターの工場ではないところで生産をすることが決定し、カラーについてもシルバー(おそらくクリアアルマイト)+内側をアルマイト着色仕上げという一般的なヨーヨーの着色方法にして製品版が仕上がりました。

パッケージ、バーコード、商品名はそのままに、中身だけがアップグレードされている今回の新型メタルドリフター、スピンギアでは新型と旧型を区別して販売しているので混ざることはありませんが今後旧型が販売されることはなくなったので今のうちにヨーヨー史上、唯一かもしれないユニークな構造、ボルト&ナットの旧版も手に入れてみてください!

いかがだったでしょうか?英語化されることもないと思うので海外では知られていないダンカンの裏歴史、写真を交えて書いてみました。

ヨーヨーコレクションってものの魅力だけではなくて開発の背景、なぜその構造に至ったかそして同時期に他のヨーヨーにどのような影響を与えたかなどを踏まえて、自分なりのストーリーを組み立てていくことも魅力だと思います。

いわゆる競技用ヨーヨーではないカテゴリーの機種ではありますが、販売数量が多いということと、マスプロダクションならではの問題(大きな仕様変更が気楽にできない)などもありつつ、ユーザーには告知されないタイミングでいくつかマイナーなバージョン違いが存在しているのも魅力です。パッケージ形状やダイスも予告なくロット毎に変わっていたりします。

まだ情報解禁できない(お蔵入りモデルだけど確定していないので)ドリフターと同時期に開発していたメタルリム付きハブスタック、サンダーホーク、ファイアーホーク、フェザーフォークのことについてもそのうち、書いてみたいと思っています(一度カタログにものったので完全秘密ではありません)。