ドナルドダンカンの誕生日にして、アメリカのヨーヨーの日、スピンギア楽天出店15周年の6月6日の記念日に向けてこのニュースをお知らせできるのは嬉しいです。66に向けて様々な話題、新商品を発表できればと思います。
SETP2登場です!
ヨーヨーを20年間、新しく始める人達に勧め続けて、教え続けてる中の毎回の永遠のテーマ。
ヨーヨーはどれを買ったらいいですか?
お店としても、イベントなどでも、ヨーヨーをやりたい!と思ってくれた人にヨーヨーを買ってもらう上で、その場限りの売り逃げの売上が立てばよいというよりはそれをきっかけにヨーヨーの世界に入ってきてもらいたいと思い、20年間、活動を続けてきました。いままで何十万人という人にヨーヨーを見てもらい、1万人以上に直接ヨーヨーを教えるという機会をいただきましたがそれがきっかけでヨーヨーを始めていまでも続けている人は数えるほどしかいません。毎週末にヨーヨーイベントをしても”ヨーヨー人を見つける”という作業は砂漠の中の砂粒を見つけるような作業です。(ヨーヨーを知ってもらう、触れてもらうという意味においてはもちろん目的は達成していますが)
そのような一期一会の中で、最初に渡されるヨーヨーはとても大事で、紐が切れた、ヨーヨーが戻ってこない、分解して部品が無くなった、などの理由でヨーヨーを遊ばなくなる人がほとんどという現実からするとヨーヨーを続けていく上で、自信を持ってすすめられる”納得の行く”ヨーヨーを手に入れることは至上命題でした。
もちろん金額を出せば競技用メーカーのよい商品が手に入りますが、ヨーヨーを気軽に始めてもらいたいという時に、2000円以上のものはプロショップで買うなら良いですが、一般店頭に並んでいても中々手が出ません。そのような中で990円という価格はステップ1がスタートする上でとでも大事な数字でした。(最終的にはワンコイン(500円)ヨーヨーが天下を取ると思いますが)
1000円以下のくせのない最初のヨーヨー。
その要望に回答するべく、リーズナブルで取扱のしやすい、でも競技用入門として最低限のボールベアリング搭載という要件は外さずに、売り場でも売りやすいパッケージ。
とヨーヨープロとして活動してきたことの集大成を込めたシリーズとして2015年にステップ1が登場しました。
競技用の廉価版として素材はABSを使用していますが、ボールベアリングにスペーサーと競技用のヨーヨーの構造を採用した妥協のないモデルになっています。デザイン的にはおもちゃを意識したロゴと配色になっています。
STEP1はビックカメラ、イトーヨーカドーなどの量販店をはじめとして流通にも乗り、初心者向けの入門機種として支持を集め、2017年には工場を移し、金型を完全新規で作り、見た目には大きく変わっていないですが、軸周りの精度を上げ、48mmキャップ採用、インジェクションゲートをボディ外周から内部の見えないところに移し、見た目の綺麗さも追求をしています。
その後、間が空いて、STEP3メタルウイングが登場します。
引き戻しメタルとしてかなりレスポンシブな仕様で登場してます。
多くの方の疑問としてSTEP2はどこへ行ったの?という疑問があるかと思います。
実はSTEP3はSTEP2のメタル版という位置づけで、プラスティックで親しんだ形でメタルにステップアップしてもらおう!という狙いがありました。
元々ステップシリーズは1、2、3が企画立ち上げの段階で決定していて、ノーマル形状、バタフライ、引き戻しメタルを出すというコンセプトに加え、デザインも2015年時点で大枠で決まっていました。なぜこんなに時間がかかってしまったのか、、、
ダンカンのメタルドリフターは元々、ドリフターというプラステイック機種が先行で試作をし、金型まで作るところまで行きながらお蔵入りになり、同様の形状のものがメタルドリフターとして発売されていたという経緯があります。そのために初期モデルは工場が図面からプラスティック構造を”そのまま”メタルに置き換え、前代未聞のボルトナットを使った削りだし機種という構造でした。いまの競技用ヨーヨーよりも圧倒的に手間がかかる構造でした。
スピンギアのSTEP2もそのような末路をたどるのでしょうか、、、
プラスティックのヨーヨーは金属とは異なり、設計の段階で想像力を巡らせ、作っても素材選択、ベアリング周りの構造(ボルト・ナット・パッド)、に加え、工場のコントロールですが、ゲート位置、プラスティックを入れる圧力(機械の性能に依存)や冷やす時間と収縮率など様々な要素が絡み合い、想定どおりに仕上げるにはノウハウの蓄積が必要になります。
金属とは異なり試作をすると行っても簡単にはできません。
初期のSTEP1はOEMモデルとして既存の金型のロゴ変えで発注(現行STEP1は完全に新規金型を起こしました)をしたのでスムースなスタートを切れましたが、STEP2は市場にあるヨーヨーではなくて、自分たちのこだわりの機種を作りたい、という思いで企画をスタートさせています。
2016年、図面を完成させた後、手に持った感覚やフィーリングを見るために3Dプリンターで出力をしました。3Dプリンターの試作はどの業界でも非常にポピュラーな試作方法になっていて、ヨーヨー界も多分に漏れず、金型を作ってしまうというリスクを取る前に、3Dプリンターや旋盤で削り出した形で試作をするのが当たり前になっています。
ステップ2の場合、6角ボルトの部分があり、旋盤のみの加工では難しいこと、フライス盤などを併用すれば削りだしでも作れるのですが、純粋に3Dで図面を作って、それを出力したらヨーヨーとしてきちんと使えるのかということを試してみたく、商業用の3D出力サービスを使い、試作をしました。
3Dプリンタの出力だったのでブレ等はでていますが、手にした感じ、戻ってきたときのキャッチ感など、概ね想定通りでした。
ステップ2はこれで製造できる!と思い工場に相談しましたが、工場が肉厚のプラスティックを嫌がりました。肉厚のプラスティックは冷える過程でひけと呼ばれる形状の変化が出ることが多く、変形しやすいのです。また冷やす時間がかかるため1つあたりの生産効率が落ちることも工場は嫌がります。
そもそもプラスティック製品の良さは薄く丈夫で、自由な構造で物が作れるところにあり、ガラスのような肉厚なものを作るのはセオリーに反しています。薄いボデイと薄いキャップで、金属リングなどで重量を稼ぐのが”正しい”プラスティックおもちゃの設計です。
同時期にステップ1の品質管理上の問題で工場を移ったこともあり、金型代を支払った後ながらステップ2はお蔵入りの状態になります。工場と良好な関係を築くこともモノ作りの中に含まれる重要な作業の一つです。
ステップ1の新しい工場にもステップ2を同時プロジェクトとして提案したところ競技用の品質の高いヨーヨーのノウハウがない段階でステップ2を作るのではなく、ステップ1を成功させてから2を作りたいという話になり、ステップ2はお蔵入りにはならなかったものの、無期延期状態になります。そして去年のハンドスピナーブーム。完全に事故でした。スピンギアに半年間の空白が産まれてしまい、ヨーヨー、こま、けん玉のプロジェクトがほとんどストップしてしまいます。
2017年秋、ようやくステップ2プロジェクトが再始動します。
ステップ2のコンセプト
・ラウンドバタフライ。競技用のトレンドがローエッジ、ストレート形状が多い中、ヨーヨー初心者から中級者へのステップアップにはエッジが高めで投げ出しの感覚も気持ちいいラウンド形状でヨーヨーに慣れてもらいたいと考えています。
・Hシェイプ。近代ヨーヨーの重量配分の特徴の一つ。単純なバタフライ形状ではなく、ステップがあることで、競技用ヨーヨーの”入り口に立つ感動”を味わって欲しいと思いました。
・ベアリングはサイズC。ハーフスペックと呼ばれる薄型ではなく、フルサイズのサイズC。ハーフスペックは戻りの良いヨーヨーを作る上では特効薬のように重用されていますが、プラスティック機種でメタルほど回転力が期待できないヨーヨーの場合、遊んでいる途中で空転が止まることがあったり、ギャップが狭すぎて遊びにくいということがあります。
・キャップは塩ビキャップ。古き良きヨーヨージャムのキャップスタイルを採用し、見た目の良さと低コスト化を両立。これはカスタムキャップの作りやすさも考慮しています。
製造上の問題ですが、インジェクションゲートの位置を見えない場所に、というのもテーマでした。プラスティックのヨーヨーは削りだしで作られているものを除くとほとんどが射出成形と呼ばれる金型にプラステイックを流し込んで形をつくる作り方で作られています。
工場では切り離し前のプラモデルが仕上がってきてランナーから切り離していく作業をしていると思ってください。
その時にランナーと部品の切り取りをした箇所が白くなり、時に出っ張っていることが見受けられます。カッターやニッパーで切り離せばそこまで汚くならないですが手でちぎってヤスリで仕上げるような作り方をしている部品もあります(ヨーヨーということではなく)。ランナーからの切り離しは通常、生産効率を重視して設計されています。
最近の競技用のプラステイックモデルはこれを嫌い、インジェクションの位置を見えない場所や回転精度にこだわるモデルは中心に持ってくるようにしています。
これはプラスティックが均一に流れ込み、より精度の高いボディを作ることができたり、ゲートを太くしてより速いスピードで流し込めるのでそれも精度に影響するというメリットがあります。
もう一つのメリットは見た目。ボディ外周に傷がないので綺麗な仕上がりをするのと、縁から入れると反対側にミーティングポイントと呼ばれる右回りと左回りで入ってきたプラスティックがぶつかる”ヒビ”の様に見える線が出ることがあります。プラスティックの種類によってはそれが顕著に現れるので見た目に拘る上でも中心からの流し込みは必須でした。また肉厚のボディの場合、そのミーテイングポイントから割れることもあり、プラスティックを流し込む位置、は一般的なヨーヨー設計とは別のノウハウが必要な分野です。
しかし、工場はこれも嫌がります。なぜか。
それは8個取り、4個取りで効率よく生産できるモデルと比べると中心からの流し込みでは1回の射出で取れる数がぜんぜん違うため圧倒的に時間がかかるからです。金型は消耗品なので1回の射出でたくさん取れるほうがいいです。また肉厚のプラスティックでは流し込む時間も、冷やす時間もかかるのでスピードが落ちます。3交代制で24時間工場を動かして機械を止めること無く延々と物を作り続ける工場は受けてくれない案件です(一度そのような工場に行ったことがありますが深夜から明け方でも工場がガンガン動いているのは恐ろしさを感じます)。
8個どりの例。とにかく早く薄いボディーで量産性を確保するという設計です。
近年、肉厚の射出成形プラスティック機種がトレンドになっていますが、プラスティックの射出成形の常識の反対側の肉厚、1個取り金型は工場にとっては魔のオーダーと言えるかも知れません。スカイヴァで突破口を開いたマジックヨーヨーは競技用ヨーヨーを生産することに力を入れているので良いですがプラスティックの射出を専門にする工場は精度までを気にするヨーヨーの射出成形は割に合わない仕事になります。
ヨーヨーの設計をする時に金型の設計も念頭に入れたデザインをする必要があります。通常は2Dの図面に寸法を入れて工場に渡し、それで終了ですが今回は金型の3Dイメージを確認しながらヨーヨーに最適と思われる位置にゲートを持ってくる調整をしています。
コスト的にも割高になるこのやり方ですがステップ2では廉価版でコストを削減できるところは削減して、妥協したくないところはしないというやり方で工場と折衝をします。
中心部分に太いゲートをもうけ一気にプラスティックを流し込み、成型後、中心部分を取り除くという競技モデルと同様の作り方で精度を出す作り方を採用しました。
今の工場は製品の品質向上に前向きで、競技用機種の開発にも興味を持っていてくれたのでこちらの要望以上に様々な工夫をしてよい製品を作る手伝いをしてくれています。
工場からの3Dプリンタでの試作品が上がってきます。この時点で工場側からの提案としてコストは大きく変わらないのでプラスティック一体型のスペーサーではなく、精度の出る金属スペーサーの採用を勧められます。
当初のデザイン。ベアリングシートはプラスティック。
精度の問題だけではなく、スペーサーが無くなる、という問題もあったのでシンプルな構造を当初予定していましたが、せっかく作るなら良いものを目指したいと思い、あるギミックを考え出しスペーサー脱落問題をクリアします。
同じ3Dプリンタでも自分たちで作ったものよりもより最終形態に近いのでちょっとテンションが上ります。
スペーサーが落ちない仕組みは、このパッドの下にメタルスペーサーを引っ掛け、スペーサーが落ちないようにする、という構造でした。
3D試作で工場側との意思統一も図れ、目指すべきゴールが見えたので金型にGoサインを出します。
そこから数ヶ月が立ち、金型を使用したT1サンプルが仕上がってきます。
ヨーヨーが好きな人の多くがクリアプラスティックが好きでたまらない人が多い?と考えているのですがいかがでしょうか?少なくともスピンギアの社員はみんなこの肉厚のプラスティックで歓声を上げ、ステップ2の金型がうまく行ったことにほっと胸をなでおろしました。
金属のヨーヨーは旋盤で削り出すために、工場側は機械セッティングの手間やエンジニアの時間が専有されるというリスクはありますが、発注側(ヨーヨーメーカー)としては図面がしっかりしていればほぼ問題なく図面通りのものが仕上がってきて初期投資がほぼないのでリスクが低く、少額でブランドがスタートできます。ヨーヨーブランドが乱立している昨今の参入障壁の低さは見て取れるかと思います。
それに対し、射出成形のプラスティックヨーヨーは数千個単位の発注が最小発注単位で、なおかつ、金型代は十数万円~数百万円と非常に金額が高く、しかも一度金型を作ってしまうと大きな修正はできないので後戻りができない”ギャンブル”的な要素があります。
いくつかのブランドが金型を作るまで行っていてもうまく仕上がらずお蔵入りをしているのを目の当たりにしているのでステップ2も3D試作がうまく行っても金型版サンプルが届くまでは安心できません。
※写真の用に見えますがCGです。
クリアのT1でテンションが上ったところで製品のカラーを決めていきます。ステップシリーズが主にヨーヨーを始めてみたい男児向けにターゲットを絞っているので、赤と青の王道カラーを外さずに来ています。ステップ1ではABS樹脂だったのでクリアを見送りましたがステップ2はポリカーボネートボディなのでクリアが非常に綺麗に出ます。というわけでクリアレッドとクリアブルーを基本カラーに限定カラーを用意して、ヨーヨープレイヤーの皆さんにも手にしてもらいたい仕様として用意していくことが決まります。
ロゴデザインはステップ1がファイヤーのエレメントだったので、次は男児ホビーの定番エレメントの一つ、雷をイメージしたデザインに。
パッケージもステップ1のサイズを踏襲しつつ、厚みのあるサイズでなおかつフックにかけるだけではなくて机などにおいても立つスタンドを付けていきます。3Dのモデリングでブリスターもデザインをし、仕上がりイメージを確保しながら製品開発を進めていきます。
工場との情報の共有にとても役立つ部分でした。
こうして製品として仕上がり皆様のお手元にお届けできます。
肉厚ボディにこだわった結果、回転力は得られたものの、慣性モーメントがありすぎて微細なズレで振動を発生してしまう問題は解決することができませんでした。
精度や作り方にコダワリは出したものの、量産品としての生産なのでブレチェック、修正は行わない遊ぶ上では問題のない振動は発生している個体がある状態での出荷となっています。競技用ヨーヨーの場合は、一つづつ、ブレチェックを行い、組み合わせ調整をして、修正できないものは出荷しないという金属ヨーヨーと同じ工程を経ているものが多く、そこが理由でコストが上がります(生産数=出荷数ではないことと(いわゆる歩留まり)、人件費)。
ステップ2は競技用の入門ですが、100%の個体がブレのない個体ということを求めてコストが上がっていくよりは量産品としてのクオリティに達していればあとは調整の可能性があることでプレイヤーのスキルによって使いこなせるというところで落とし所をもうけています。
初心者のうちはそれで良いのですが、気になる、という方はボルトナットではなく、両端をナイロンナットにするという業界でも珍しい試みをしています。それにより、締め込み具合の調整ができ、従来のナット位置変更という調整に加えより細かい調整ができ、ブレの軽減が図れるので試してみてください。ヨーヨージャムほどではないですがセミアジャスタブルギャップと言えるくらいは幅の調整ができ、すべりを良くすることもできます。緩くしすぎると分解の可能性があるのでエキスパート向けの調整方法です。
調整をすることでブレが無くなる感覚もメンテナンスの一部として味わって欲しいと思います。
またドライベアリングに1.5mmの極厚パッドによるレスポンスはスリープの動作ができない人でもヨーヨーを離して落としてスリープして、自重のみで回転をして、引いたらなんとか戻るというセッティングを狙っています。
ヨーヨーパフォーマンスを見た後の100%の子どもがスリープをしたいという気持ちになりますが、中々簡単には行きません。
プレイヤーの方はメンテ必須となってしまいますが、完全に初心者をターゲットにしたセッティングにしたことで、より多くの初めてヨーヨーを手にする人がヨーヨーに挫折せず技ができる楽しみを味わってもらいたいと考えています。